【気分の切り替えを早くするには?】
さて、私の場合、医師という職業上、他の職業の方に比べて頭の切り替え、気分の切り替えが大変得意です。
もちろん、これは、元からそうだったわけではなく、医師という職業柄、必要に迫られてそうなったともいえますが、次に、その経緯をご参考までに述べさせていただこうかと思います。
医師になりたての頃は、四六時中患者さんのことが頭から離れず、病院の外にいても、いつポケベルが鳴るかとびくびくしたり、街を歩いていてポケベルに似た音が聞こえるとビクッとしたりするなど、気の休まる時がありませんでした。
「このままでは、自分自身が精神的にまいってしう。何とかしなければ。」
と考え、実行しはじめたのが、
「とりあえず問題を忘れること」
でした。
最初は、まず、病院での仕事を終わって院外に一歩踏み出した瞬間から、
「病院でできることはやったのだから、あとは、患者さんの事はナースや当直の先生にお任せしよう。
実際問題、病院の外で、私が患者さんにしてあげられることなど何もないではないか。
それに、私が病院の外で患者さんの事を心配しようがしまいが、私が必要とされる時にはポケベルがなるはずだ。
だったら、『ベルのないのは良い知らせ』と思って、ひととき患者さん達のことを忘れて、充分に仕事の疲れをいやすことこそ、明日からの患者さん達のためなのではないか」
と考え、病院の外では患者さんのことを「忘れる」ようにしました。
このことを実行してから、病院でのストレスを、病院の外でかなり緩和できるようになりました。
しばらくこのことを続けた後、次に「とりあえず問題を忘れること」の第二段階を行うようになりました。
病棟の患者さんを回診し、患者さんの訴えに同情してあげると同時に、診断治療に頭を悩ませ、ストレスや疲労感を全身に感じながら医局に戻るわけですが、そこでカルテを記載し、必要な事柄をナース達に指示したあとは、一切患者さんの事は忘れて、ヒマそうな同僚等を見つけてダベッたり、医学書や雑誌を読んだりして気分転換をはかるようにしたわけです。
最後は、「とりあえず問題を忘れること」の第三段階です。
病室で患者さんの診察と会話で種々のストレスや疲労感を感じても、病室から一歩廊下へ踏み出した瞬間から、そのストレスや疲労感というものへは注意を向けず、単純に患者さんの診断治療についてのみ集中して冷静に考えを巡らし、医局でも冷静に理性的に事務処理をし、あとは気分転換をはかるようにしたわけです。
第二段階との大きな違いは、いっとき何らかのストレスを感じる事態になったとしても、その状況から一歩離れた直後からマイナスの感情を無視してとりあわず、冷静に物事を考えて処理していくようにしたという点です。
悩んでいる方々を元気にしてあげるのが医師である以上、「医者が悩んでてどうすんだ!」ということになります。
私たち医師の多くがなぜ頭の切り替えや気分の切り替えが得意なのか、その必要に迫られた実体をお話ししたわけです。
あなたの場合も、状況は異なるかとは思いますが、私のこんな経験をご参考にでもしていただき、職場のストレスを、職場以外に持ち出さないようにして下さい。
「仕事は仕事、私生活は私生活」というように、「職場以外で考えても何の得にもならない問題」は、職場から一歩外に出たら”積極的に忘れる”ようにしてみて下さい。
もし忘れられなくても職場を一歩出たら、プライベートな楽しみの事を考えたりしたりするというように、思考、関心の対象や気分などを切り替えるようにして下さい。
そうすることによって、職場以外での大切な時間を充実したものにでき、結果的には、仕事へのエネルギーを蓄える事にもなり、四六時中仕事の事で悩んで、仕事の能率を悪くするという悪循環からサヨナラできるはずです。
●家族と同居なさっている方や「重症」の方へ
職場の仕事関係の事は、職場にいる時間にだけ考えたり、悩んだりするようにし、一歩職場を出たら、それらについては、全て考えることをやめる、ということはトレーニング次第で誰にでも可能です。
別に、完全に忘れろと言っているわけではありません。
先ほど申し上げたように、職場を一歩出たら、プライベートな楽しみの事を考えたりしたりするというように、思考、関心の対象や気分などを切り替えるべきだと言っているのです。
医師が、重症の患者さんたちを何人も病棟に残して、病院を出た場合、プライベートな時間にまで、患者さんたちの事を考えていたのでは、四六時中患者さんたちの生き霊(語弊はお許し下さい)にとりつかれているようなものです。
そんなことでは、自分の人生が台無しになると同時に、結果的には、翌日病院に戻ってから患者さんへ使うべき精神的肉体的な力までどんどん衰弱してしまい、医師としての責務に答えられなくなってしまうという皮肉な結果になってしまいます。
あなたが、記憶力がいい方だとしても、一度見聞きしたことは写真のように絶対忘れないというような異常に良い記憶力の持ち主ではないと思います。
ですから、職場内外での頭の切り替えさえうまくやれれば、たとえ忘れる事はなくても、「時と場所によって、思考、関心の対象や気分等を変える」という事は充分に可能なはずです。
普通の記憶力の私でさえ、患者さんの全ての事を永遠に忘れている訳ではなく、「プライベートな時間には、考えない」と言うのが正確な表現かと思います。
記憶力が良いか悪いかよりも、思考関心の対象や気分等を、時と場所によっていかにうまく切り替えられるかどうかという事の方が重要なのです。
それから、独身で、一人住まいの方の場合、仕事が終わったら、極端なハナシ、全て自分だけの時間です。
ところが、家族と一緒に暮らしている方の場合、仕事が終わってしばらくすれば、家族との交流の時間が始まる場合も多いでしょう。
あなたが一人住まいではない場合、仕事の後の時間すべてを、全く一人だけのために使える時間ではないという側面が出てきます。
仕事を終わっても、家族それぞれに関する、或いはあなたと家族との関係に関する問題があなたの頭をよぎるのは当然でしょうし、完全に一人だけになりたくても、簡単にはなれないという場合も多いかと思います。
つまり、退社後の時間に、純粋に自分の事だけを考えていればいいのではない、というのがあなたの実状かもしれません。
会社では家族のことが気になり、通勤、帰宅の途中には、会社や家族の事が気になり、自宅でも会社の事、自分のこと、家族のこと等が気になり、常に問題が頭から離れないという人もいるでしょう。
そういった方は、結果的に、「社内、社外、自宅など、私がどこにいようと、あらゆる問題が自分を責め立てる事から逃れることなど所詮無理なのだ」という固定観念に陥っているかと思います
でも、その考えを根本的に改めて、時と場所に合わせて、思考関心の対象を変えて、気分転換できるようにならなければ、いつまでたっても、問題の大群が頭を離れることはないでしょう。
で、具体的にあなたはどうすればいいのかですが、
あなたの状況を
@職場で A職場を出て、ほぼ一人だけになれる時間 B家族と一緒の時間
の3っつに大別し、それぞれの状況で思考関心の対象を変える必要があります。
まず、
@職場では:
仕事に関する問題だけを考えるようにする。(もちろん、仕事の中に楽しみを見つけたり、気分転換をする事は必要ですよ)
次に
A職場を出て、ほぼ一人だけになれる時間には:
自分に関する問題、家族に関する問題等を「ある一定時間内に限って」考える。(仕事に関する問題はできる限り考えないようにして下さい。)
この際、もちろん、「考えても絶対解決するはずがない問題」だと判断された問題は、以後、考えないようにすべきなのはいうまでもありません。
また、「考える必要のある問題」に関しては、すぐに解決法を実行に移すべき事はすぐにやればいいし、すぐにはできない、或いはすぐにはやる必要のない解決法であれば後日実行にまわす等して、貴重な、一人になれる時間を、できるだけストレス解消になる他の楽しいことを考えたりやったりする時間に割くようにするべきでしょう。
最後に
B家族と一緒の時間には:
家族に関する問題を、やはり、「ある一定時間内に限って」だけ考えるようにし、あとは、家族水入らずで楽しく交流する時間に充てるべきでしょう。
あなたの場合、これらのことが四六時中ごっちゃごちゃになっている状態で、せっかく一人で、あるいは、家族水入らずで楽しむべき時間にまで、仕事のことを考えたり、制限時間をもうけないで、いろいろな問題について堂々めぐりの考えを続けたりして疲労困憊してしまっていたのではないでしょうか。
もし、あなたが、真に一人になれ、全思考、全関心を自分の好きなことに振り向けられる時間があるとすれば、或いは、家族との団らんを心から楽しめるのであれば、気持ちが非常にリフレッシュされ、ストレスが減り、体調も良好になるでしょう。
時と場所によって、考えるべき問題の分野と充当時間を制限し、残り時間をできるだけ楽しみのため、ストレス解消のために充てる、というようにメリハリをきかせれば、年がら年中悩んでいる必要もなくなるはずですよ。
【人間はなぜ悩むのか Part V】
「問題をどう解決すればいいか」目次へ
次の問題解決法へ
トップページへ戻る