【高血圧はなぜ治す必要があるのか?】
●高血圧自体には、自覚症状はありません●
普通は、血圧が高いことによる直接の自覚症状というものはありません。
【健康診断はなぜ必要なのか?】
の項目でも申し上げたように、血圧が200以上(正常は140以下)あってもほとんどの場合、何の自覚症状もないものです。
血圧が高いと頭痛や腹痛などの自覚症状が起こるのであれば、苦しみをとるためにだれでも高血圧を治したくなるでしょう。
しかし、健診などで高血圧を指摘されても、
「オレは今、痛いところも痒いところもないし、非常に体調が良い。
だから高血圧など放っておいても構わないのだ。
ま、何か症状が出たんなら医者にかかってもいいけどね。」
等と思っている人をたまに見かけるものです。
では、自覚症状がないからという理由で、高血圧を放置しておいても構わないのでしょうか。
答えは、当然「ノー」です。
●高血圧は動脈硬化を進めます●
では、高血圧の状態を続けていると、いったい何が起こるのでしょうか。
それは、動脈硬化が進行し、様々な病気にかかりやすくなるのです。
「動脈硬化」
よく耳にする名前ですが、一体どういうものか、はっきり理解している人は少ないようです。
台所や洗面所などの排水管は、古くなるとパイプの内側にゴミが溜まり、ひどくなると詰まってしまい、水が流れなくなってしまいます。
同じように、動脈(血管)は、血液が流れるパイプのようなものなわけですが、年令と共に内側にコレステロールやカルシウム分などが沈着して狭くなり、詰まりやすい状態になります。
つまり、動脈硬化とは「動脈の老化」といっても良いでしょう。
動脈が狭くなって、ある時完全に詰まってしまうと、そこから先には血液が行かなくなるわけですから、排水管の詰まり以上の大事(おおごと)になります。
例えば、心臓の筋肉に血液を送っている冠状動脈(よくバイパス手術が行われたりする血管です)が詰まってしまうと、「心筋梗塞」という病気になり、初回発作で約半数近くの人は命をおとします。
また、脳の動脈が詰まってしまうと「脳梗塞」という病気になり、半身麻痺で寝たきり状態になったり、言葉がしゃべれなくなったりするので、本人も大変ですが、介護する家族も大変になります。
で、動脈硬化を進めるものにはいろいろありますが、高血圧はその代表格です。
高血圧自体は自覚症状を引き起こさなくても、高血圧を放置する事によって進行してしまう動脈硬化によって、のちのち様々な病気が起こってくるのです。
心筋梗塞で即死してしまえば、この世で後悔することもないでしょうし、高額の生命保険に加入していれば、家族も路頭には迷わないで済むかもしれません(ちょっとブラックでしたね...苦笑)。
しかし、救急病院の集中治療室で何本もの点滴のチューブや、心臓の状態を見る各種のコードなどで、「人間スパゲッティ」状態になってから、あるいは、脳梗塞で半身麻痺の寝たきりになってから、
「ああ、高血圧を放っておくんじゃなかった。あの時、高血圧を治療しておけば、こんな苦しい思いをしなくても済んだのに」
などと後悔しても手遅れです。
●高血圧を治せば長生きできる●
高血圧を治療していれば、動脈硬化の進行は抑えられるという良い例が、私の祖父でしょう。
祖父は40歳代頃より高血圧があり、亡くなるまでずっと降圧剤を服用していました。
私と、やはり医師である私の父は、「おじいちゃんは、まあ、70才まで生きられれば良しとしなければならないだろうね」とよく話していたものです。
ところが、70才どころか、数え年で88才(満86才)の米寿のお祝いをした年に他界したのです。
しかも、最期までボケもせず普通の生活を送りました。
実は、祖父は、薬剤師であったため、薬の大切さをよく理解していたという事もあってか、私たちが処方した高血圧の薬を、40代の頃からきちんと服薬していたのです。
亡くなる前の日、たまたま薬を切らして服薬しなかった事と、町内の宴会に出席して、寒い中を歩いて帰ってきたという事なども重なって、その夜中、寝室のベッドで、心筋梗塞でほとんど苦しみもせずに亡くなりました。
全くの大往生と言わざるを得ません。
高血圧があっても、食事や薬などできちんと血圧を正常にしておけば、少なくとも、動脈硬化による心臓や脳の病気で倒れることなく、平均寿命以上の天寿を全うできる可能性が充分に出るのだという事の良い例ではないかと思います。
●高血圧と言われたら●
よく、「血圧の薬を飲み始めると、一生飲む事になりそうだから、医者にはかかりたくない」という理由で、高血圧を放っておく人がいるようです。
しかし、こういった「臭い物に蓋」的な対処法では、前述の様に、将来倒れた時に後悔する事になる可能性が大でしょう。
高血圧の人が内科に受診した場合、軽度の高血圧であれば、薬は処方されず、まず、塩分を控え、肥満があればそれを改善するよう指導されるはずです。
もし、最初から薬を出されそうになった場合には、「少しの期間、食事療法で様子をみてはもらえませんか」と申し出てみて下さい。
最高血圧が200以上もあるような場合や、心電図や胸のレントゲン写真で明らかに高血圧の悪影響が認められる場合などは別として、多くの医師はこんな事を言うかと思います
「では、しばらく食事療法で様子を見てみましょう。2週間に1回位血圧を測りにきてみて下さい。
しばらく様子をみて、正常にならない場合には一時的にでも降圧剤を飲んでもらうかもしれません。
もちろん、薬を飲み始めても食事療法や適度の運動などは続けて下さい。
その結果、血圧が下がってくれば、将来的に薬はやめられる事もあります。
ですから、降圧剤は飲み始めたら一生飲まなければならないというのは、必ずしも誰にでも当てはまることではないと言えます。
ま、こうやって受診なさった○○さんはいいのですが、血圧が高いのに放置しておく人は、その理由が何であれ、あとあと後悔する事になるはずですよ。」
等と。
で、できれば、腕(上腕)で測るタイプのデジタル表示の自動血圧計を購入し、毎日ではなくてもいいですから、家庭で時々血圧を測って記録してみて下さい。
手首や人差し指で測るタイプの血圧計は、全くと言っていいほど、正確な血圧測定結果...(上腕で測定したもの)...と一致しませんので、購入しないようにして下さい。
以前、「他の医院で高血圧と言われ、降圧剤を出されたのだが、家で測ると低い位なので薬は飲んでいない」という患者さんが当院に受診しました。
その方の血圧を、上腕で測ってみたところ、175/110と明らかな高血圧の数値だったのですが、持参した指で測る血圧計(?)で次に測定してみると、なんと107/46と表示されたではありませんか。
安くて、使い易いという魅力はあるのかもしれませんが、結果がこのようにメチャクチャでは、金を捨てるのに等しいというものです。
塩分を控えめにし、肥満を改善し、できれば適度な運動や、歩くことを心がけ、しばらくの期間様子を見ていても、正常の血圧(自宅でなら最大血圧が135以下、最低血圧は85以下)にならない場合は、恐らく服薬が必要になるかと思います。
「でも、やっぱり、薬を飲むのはイヤだなー」と考える方もいるかもしれません。
でも、そんなに深刻に考える必要はないのではないでしょうか。
第一、今は、昔と違って、非常に良い薬が出ており、小さな錠剤を朝一回飲むだけで済むのです。
私など、血圧の薬は飲んでいないものの、毎朝、健康維持のための各種のビタミン剤等を合計10錠位飲んでいますが、それで将来的にも健康が良好に保たれるであろうと予測している以上、恐らく一生飲み続ける事になるかと思います。
ですから、同じように、それによって将来的な健康が得られると考えれば、朝一回の小さな降圧剤など、一生飲み続けたって大した負担に思う必要は無いと思うのです。
「無病息災」という言葉がありますが、私の祖父の様に、「一病息災」というような考え方もあるという事をご理解いただきたいと思います。
もちろん、前述の様に、薬以外の面で改善する努力を続ければ、将来的に薬がやめられる事もあり得ます。
ただし、素人判断で勝手に止めるのは一種の自殺行為ですから、医師と相談しながらという形にするべきなのは当然です。
●「白衣性高血圧」について●
普段の日常生活では血圧が正常(最高が135以下位、最低が85以下位)なのに、医師や看護婦等に測ってもらうと高血圧の値を示す人を、「白衣性高血圧」といいます。
病院などに行った場合、誰しも多少は緊張するのではないかと思います。
かくなる私だって、歯医者さんに行ったときは、あの独特の匂いや音を聞いただけで緊張してしまいます。
ですから、皆さんが、病院に行って、緊張から普段より血圧が上がってしまうという事は、充分あり得ることです。
こんな場合、参考になるのが、心電図と、胸のレントゲン写真、そして普段の血圧です。
もし、心電図と、胸のレントゲン写真に高血圧の兆候がなく、家庭で測定した血圧が、上が135以下、下が85以下であれば、血圧に関しては無罪放免となります。
ですから、自分は「白衣性高血圧」ではないかと思う方は、是非、血圧計を買って、自宅で測定し、その記録結果を受診時に持参し、医師に見てもらっていただきたいと思います。
家庭での血圧が正常で、心電図と、胸のレントゲン写真にも高血圧の兆候がない場合には、たとえ、受診時の血圧が多少高くても、治療する必要はないと判断されます。
ですから、健診などで血圧が高めだと言われた方は、食事療法や軽い運動をしながら、是非、血圧の自己測定をやってみていただきたいと思います。
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